ノジマが手がける商業施設開発
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時代が大きな転換期を迎えている今、SCはどのような未来を目指そうとしているのでしょうか。このシリーズでは、SC業界のキーパーソンをゲストに迎え、その想いやビジョンを伺っていきます。
今回は、大手家電量販店ノジマが新たに府中駅前に商業施設『ミッテン府中』を開業されるということで、株式会社ノジマ 営業開発部 顧問 栗原 郁男氏(以下、栗原 氏)に、 インタビューをさせていただきました。
インタビューゲスト: 株式会社ノジマ 栗原 氏
インタビュアー:SCネットワーク 有吉
有吉 まず株式会社ノジマ様の事業概要からお聞かせください。
栗原 弊社の出発点は、代表執行役社長である野島廣司の両親が家業として有限会社野島電気商会を創業したことにあります。現在は家電量販店の「ノジマ」と通信キャリアショップを展開し、さらに商業施設として町田市に「ままともプラザ町田」、横須賀市に「ノジマモール横須賀」を自社運営しています。2021年夏には新たに府中駅前に「MitteN府中」(ミッテン府中)を開業する予定で、これは当社として最大規模の商業施設となります。
有吉 商業運営に関して、鉄道会社であれば「沿線開発」、不動産会社であれば「土地の価値向上」などがあげられると思いますが、貴社の企業DNAの観点からお考えをお聞かせください。また、独自の経営戦略として「コンサルティングセールス」を掲げていらっしゃいますが、こちらはどのような理念なのでしょうか?
栗原 一般的な「家電量販店」では、メーカーから派遣された販売員が売場に立って接客しています。しかし弊社では、メーカーの販売員は置かず、すべての商品について自社の社員がお客さまのニーズを直接うかがい、最もご希望に添う製品をすべてのメーカーの中から選んでご提案しています。これがノジマの提案する「コンサルティングセールス」です。ノジマは“家電量販店”とは言わずに、“家電質販店”を標榜しているんです。今申し上げたコンサルティングセールスについても、我々が最も大切にしている「お客さまのためにどうするか」を考えることに通じています。
お客さまがお買い物をした後に「あれも一緒に買えばよかった」と思うことがあると思います。それを提案してあげることでお客さまの「あったらいいな」というニーズを引き出せるし、お客さまもそんな提案をしてくれるお店ならばまた行きたいと思うでしょう。ニーズというのは、伝えて、気づかせてあげて、初めてニーズになるんです。お客様の目線でのそうした提案がコンサルティングセールスで、売上はその後に自然とついてくると考えています。
有吉 ありがとうございます。当社の経営理念にも“顧客同一化”という言葉があり、顧客と同じ視点で課題に取り組むことで、お客さまの先のお客さままで考えることを大切にしています。よくビジネスの中でも「ウォンツ=手段」と「ニーズ=目的」と言われますよね。●●が欲しいだけではなく、何でほしいのか?まで聞けると、提案しやすいと感じます。また、ニーズまで聞き出すことはコミュニケーション能力がすごく大事ですよね。
大型商業施設「MitteN」を府中に開業予定
有吉 府中駅南口に誕生する新しいランドマーク、「MitteN」についてうかがいたいのですが、こちらはどういう経緯で開発に至ったのでしょうか。
栗原 旧・伊勢丹府中店が入居していた館内をリノベーションし、大規模商業施設としてオープンすることになりました。弊社では以前より府中のマーケットに非常に魅力を感じており、いずれ自社の店舗をという思いがありました。そんな中でお声をかけていただき、開業を決意した次第です。
有吉 これまで「ままともプラザ町田」「ノジマモール横須賀」を運営してこられましたが、「MitteN」は80近いテナントが入る、大規模なものになります。御社としても大きな決断だったのではないでしょうか?。
栗原 府中伊勢丹が閉店することになり、地域の皆さまからは「府中が寂しくなる」「駅前に家電量販店が欲しい」という声が上がりました。そうした思いにも背中を押されました。
テナントの目線を施設運営に活かす
有吉 これまでテナントとして数多く出店されてきたわけですが、一方で「運営者」としてのお顔もおもちです。その両方のお立場から、商業施設のあり方についてどのように感じていらっしゃいますか?
栗原 ノジマは、「スタッフを大切にする」という方針を大切にしてきました。これは大型商業施設の運営側としても、貫いていきます。例えば入退館を管理するセキュリティカードがありますが、これを「MitteN」では体温計測機能付きの顔認証システムに置き換える考えです。働く皆さんが安心できますし、カードを紛失する心配もありません。出退勤を管理する側も楽になります。
有吉 素晴らしいですね。「MitteN」の開業に合わせて開発中ということでしょうか?働くテナントのスタッフさん視点で良く耳にするのが、従業員休憩室です。設計上気を付けられた点などございますか?
栗原 そうですね、驚くような仕掛けはないですが、例えばスタッフの皆さんは歯磨きをトイレで行うことか多いようで、パウダールームとは別に「歯磨きのできるスペース」を設けています。また、休憩室にはWi-Fiは当然のこととして、電源コンセントも席に用意しています。
有吉 テナントとしてスタッフさんに対するそうした気づかいを磨いてこられたということでしょうか?
栗原 そうですね。休憩室に限らず、バックヤードの動線一つとってみても、こういう流れだと時間帯によってスタッフが苦労するはずだ、といった目線を大切にし、極力負担を減らせるような工夫を積み重ねてきました。
有吉 テナント側の気持ちがよくわかるという点は、デベロッパーとしても大きな強みですね。
栗原 運営側に回っても、テナントの気持ちはすごくよくわかりますね。例えば売上管理もそうです。配送料や梱包料などは確かに売上に計上されますが、それが賃料計算に反映されるのか、どうなのか、などテナントとデベロッパーそれぞれの立場がわかり、言い分がわかるというのは、確かに私どもの強みだと思います。
デベロッパーとしても、既存の枠組みにとらわれない発想ができます。例えば、購入すれば、駐車料金2時間まで無料というところが多いですね。けれどお客さまにはできるだけ長い時間帯滞在していただいて多くのテナントを回っていただきたいから、本来なら駐車場は無料の方が良いのでは?と思うところもあります。ノジマはデベロッパーとしてはまだ新人なので、そうした新鮮な考え方ができますし、お客さまと接してきたテナントの目で考えることが出来ます。そういった強みを大切にしていきたいと思います。 ただ、今回は、駐車場は市営ですので、無料とはいきませんが。
テナント同士のコラボを仕掛ける
有吉 「MitteN」では体験型、時間消費型というキーワードを掲げていらっしゃいます。これまでショッピングセンターはアパレルを中心とした物販に力を入れてきましたが、次第に飲食に比重を置くようになりました。そこをコロナ禍が直撃した状況の中、体験型、時間消費型のテナントとはどのようなイメージになりますか?
栗原 確かに飲食に関しては非常に辛い状況です。そんな中で3階に入っていただくのが「ノースリンク」というカフェです。いわば情報発信するカフェで、ここでコーヒーを飲みながら備え付けのタブレットで、買いそびれた洋服やそれこそミッテンに出店しているテナントの商品が検索できるなど、テナントどうしがコラボできるような仕組みを考えていきたい。お客さまもいちいち登録しなくてもご利用いただけるようにしたいと思います
有吉 いままでは映画の半券を見せれば割引になるような買い回りの企画はよくありました。そういうアナログな工夫ではなくて、デジタルを活用した仕掛けは面白いですね。
栗原 ノジマの店舗ではデジタルを活用した商品受渡しロッカーを導入しています。これはお取り寄せの商品の受け取りというよりも、お店に頼んだ商品の受け取りにご利用いただいています。これであればレジに並ばなくても良いですし、人との接触機会も減らすことが出来ます。「MitteN」でも導入して全テナントが使えるようにしたいと考えており、ECとリアルの連携に活用したいですね。
有吉 ECとリアル店舗の協調・融合は、多くの方が悩まれているテーマです。
栗原 ECのショールーム化はあっていいと思います。ECサイトから送料なしで送れるようにして、リアル店舗にも足を運んでいただけるようにすることが大切でしょう。
有吉 「MitteN」でのSCアプリについてはいかがでしょうか?
栗原 ノジマには既にノジマ独自のアプリがありますから、「MitteN」でアプリを用意するのは、なかなか難しいのが正直なところです。どう連携していくか考えていきたいと思います。
海外での積極展開にも一歩を踏み出す
有吉 今後の御社の展開についてお聞かせいただけますか?
栗原 シンガポールのオーチャード通りで商業施設を運営しようと考えています。日本で言えば、銀座の大通りに近いイメージの立地です。
有吉 海外へデベロッパー業としての軸足でも攻めていかれるお考えでしょうか?
栗原 ええ。ただし残念ながら、海外ではまだノジマのブランドイメージは定着していません。そこで弊社では「コーツ」という家電量販店を買収し、シンガポール、マレーシア、インドネシアの「コーツ」をノジマが運営する形にしています。オーチャード通りの店舗は旗艦店として、ノジマブランドを海外で拡大する足がかりとしていきます。
有吉 コロナ禍での海外展開はハードルが高いイメージですが、その辺りはいかがでしょうか?
栗原 実は「コーツ」を買収したのは2年前の2019年で、オーチャード通りの商業施設の運営も今年の1月に発表しました。
海外展開プロジェクトそのものは何年も前から決めていたことです。
有吉 海外展開で一番に思うのは「人材」ですが、スタッフはどうされるおつもりでしょうか?
栗原 現在シンガポールでは現地での採用を積極的に行っています。従業員一人一人を育成し、会社と一緒に成長できることが当社の強みです。現在、ノジマからの日本人駐在員が数名現地にいますが、シンガポールのCEOは、ベトナムから日本に留学し新卒でノジマへ入社したベトナム人です。若いけれど非常に優秀な人材で、ベトナム語、英語、日本語が堪能です。こうした人材と店舗を通じて東南アジア各国に日本式のビジネスモデルを展開し、その国の発展に貢献したいと思っています。
有吉 貴社の理念からも、やはり「人材」育成は最重要でしょうか。
栗原 ノジマは少数精鋭で事業を展開しており、現場も少ない人材がマルチに働いています。その結果、経理の数字がわかるし、P/Lも読めるという人材に育っています。現場が人を育てる場所になっているという点も、ノジマの強みではないでしょうか。
有吉 この度は貴重なお話をたくさんして頂きまして、誠にありがとうございました。「MitteN」の開業を非常に楽しみにしております。
インタビューゲスト:株式会社ノジマ 栗原 郁男氏
インタビュアー:株式会社イースト 有吉 利夫
撮影・編集・執筆: SCネットワーク事務局 池田・安藤