商業施設運営におけるカスタマーサクセスの重要性(後編)

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前編では、SCにおける「CX(顧客体験)とは何か?」ということについてお伝えしてきましたが、後編では「CX(顧客体験)を向上することで何が見えてくるのか」「CX(顧客体験)を向上するための方法」等について引き続き株式会社トータル・エンゲージメント・グループの池田社長にお話を伺っていきます。
前編はコチラから

CX(顧客体験)の向上によって何が起きるのでしょうか?過去の店舗コンサルティング経験から「リピート率向上」や「従業員のモチベーション向上」などの事例を交えて教えていただけますでしょうか。

池田社長:

CX(顧客体験)を単に顧客調査として捉えるのではなく、ロイヤリティ向上まで高めて考えていくと、「自社を推奨してくれている顧客は15%程度競合よりも高い価格差があったとしても購入いただける」といった調査結果が出ています。

さらに「リピート率向上」「アップセル・クロスセル」効果も、推奨者と批判者との比較で1.5倍ほどLTV(ライフ・タイム・バリュー)」も高い結果が出ています。最近はSNSの普及や商品購入時の参考するメディアの圧倒的なものは「友人」となっており、広告などよりも信頼できる友人・知人が大きな影響度を持ち始めているのです。

以上のようなことからも、経済インパクトとしてCX(顧客体験)を重視する企業が増えています。また、前回のNPS(ネットプロモータースコア)でもお伝えしましたが、推奨者のコメントからはポジティブな言葉が多く、日々フロントラインで顧客と対面しているスタッフにとってはかなりモチベーションを上げる材料となります。特に長文でいただくコメントは具体的なエピソードとして書かれていることが多く、改善活動への具体的なアクションにも繋がります。

CX(顧客体験)」を向上するための施策としてはどんなことがあるのでしょうか?

池田社長:

まず、ソフトな面としては「ホスピタリティの実践」や「称賛文化の醸成」といったものがあります。「お客さまの声」を見える化するにあたって、我々は「お客さまの声はギフトです」とお伝えしています。なぜなら「お客さまの声」は働く人々にとって、最も勇気づけられる言葉だからです。社長や上司からの褒め言葉ももちろん大事ですが、自らお金を払って自分たちの製品やサービスを購入していただいたお客様から褒められたり感謝されたりする体験は、日頃行っている何気ない作業を、意味のある仕事に変えてくれます。

ダニエル・キムの「組織の成功循環モデルの理論」には、「何か結果を出したいとき、行動を変えようとしても他人や自分の行動を変えることは難しいので失敗しやすい。まずは結果に関係する人たちの関係の質を上げることから始めよう」といったものがあります。「売上をアップする」「コストを下げる」だけを目的にした場合、経営側としては強制的に従業員の行動を変えようとしがちです。しかし、行動を変えるのは難しく、結果はなかなか出るものではありません。さらに従業員の不満や不信感が溜まってしまい、かえって悪影響を及ぼすことになります。

よって、時間はかかりますが、従業員一人一人と向き合ってお互いに認め合う関係性を築き、行動の質を上げることにより、従業員満足度が上がり、その結果売上が上がる・コストが下がる、と考えます。そして、このプロセスに「お客様の声」を入れることにより、共通の話題ができ、業務がうまく回転し始めます。

我々もエンドユーザーの立場として考えた際には、楽しそうに働いている人から、物を購入したり、サービスを受けたい、と思うものです。そのためには、お客さまと接する方自身が、お客さまの声を聞くことによって働くことの意味を変化させることが重要となります。つまり、売ることではなく、喜んでもらうということです。このことに「お客様の声」は気づかせてくれます。我々はこのことを「働きがい改革」と呼んでいます。

我々のクライアントへの調査では、「お客さまの声」を聞くことによってモチベーションが上がった、と言われる現場は80−90%にも上ります。逆に、モチベーションが下がったと言われた現場はほぼゼロです。

これによって、さらに褒めてもらえるようにするための工夫が現場から生まれます。これを種火として組織全体の薪に移すことができれば、自発的に大きな炎となり組織が変化します。

次に、ハード面としての「リアルタイム分析」があります。リアルタイム性は上記の現場の方のモチベーションを上げることに密接に影響します。実際の調査結果を一ヶ月後に渡されたとしても、現場にとってはすでに過去の話となっており、自分のことと照らし合わせて見ることができません。しかし、今しがた来られた方の意見や自分が担当した方の意見はとても気になるものです。よって現場には、なるべく早いフィードバックが求められます。

マネジメント側にとっても、現場の状況がリアルタイムで分かることは、経営的にもとても重要となります。NPSなどの指標は売上の先行指標になります。たとえば、NPSが下がっているにも関わらず売上が上げっているのであれば、NPSが上がり、それに呼応して売上が上がるのが通常ですので、現場のどこかに無理をさせていることがわかります。

経営環境の変化がものすごく早い現在、経営指標としてもNPSのような顧客との関係がリアルタイム化できることのメリットはますます大事です。

現状を改革するためにしなければならない第一歩には何がありますか?

池田社長:

大きくは2点、「覆面調査からの脱却(監査から称賛)」および「現状を理解すること」となります。

覆面調査はどうしても調査員の方に「どう感じたか」とは聞けず、事実の確認主体で監査的となってしまいます。要するに出来ていたか、出来ていなかったかです。また、コスト面からも調査員も複数名に依頼しづらいため、個人的なコメントや限られたタイミングにおける評価となってしまいます。このようなことから、現場にとって覆面調査は楽しいものではなく採点される意識が強くなります。

それに対して、顧客へ直にアンケートを依頼することによって、ユーザー視点で体験を収集することができます。当然、現場にはお客様へアンケート依頼をすることになるため、業務が増えることとなり負担になります。

我々も、顧客アンケートを初めて実施する会社の方とお話をすると、「大変だ」「やっている時間がない」といったネガティブな意見を現場の方からいただくことがあります。しかし、実際にやってみてみると「結果やってよかった」「続けていきたい」といった意見を頂戴します。

リアルタイムにアンケート結果が分析されてフィードバックされることは、多くのスタッフにとってモチベーションを上げる効果があります。我々の事例でも、店頭スタッフの90%が顧客の声が聞けたことにより、モチベーションが上がったという結果が出ています。当然、顧客の声の中には褒められるものだけでなく、かなり厳しいお叱りのケースもあります。しかし、この声は自分たちのお客様からの意見として皆さん真摯に受け止め、前向きに捉えて改善をされてます。

このことからも、定点観測(提供品質チェック)としての覆面調査の役割は残しつつも、現場改善や社内を顧客中心の文化にしていくことは、NPS調査のような直接お客様の声をいただくものが適していると言えるでしょう。

では最後にデベロッパーとして、SCは集客装置から複合体験(やりがいに満ちた場)であることが求められると思うのですが、これは顧客だけでなく従業員においてもそうすべきなのでしょうか?

池田社長:

コロナ禍でネット消費の傾向は非常に高まりました。今後はさらにAIなどの導入も進むことになり、店頭やデベロッパーの意味を再構築しなければならなくなります。単純にモノが買える売り場から、人がリアルに集うことに意味がある場所に変わっていきますので、機能性や効率性ではなく、「意味のある」「愛着がある」「楽しさがある」場作りが重要です。

店舗も自店舗のみではなく、出店者同士で来店客を楽しませるような場作りを意識して、デベロッパー自体の集客力を「意味のある」「愛着がある」「楽しさがある」場にすることが大事になってくるのではないでしょうか。そのためにもデベロッパーとして、単純なロケーション売りではなく、「意味のある」「愛着がある」「楽しさがある」がある場のためのプラットフォームとして、「お客様の声」を活かす環境の提供は今後必要になると考えます。

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