キーパーソン対談 SCのミライ 「店舗開発コンサルティング」と「中国ビジネス」について

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時代が大きな転換期を迎えている今、SCはどのような未来を目指そうとしているのでしょうか。このシリーズでは、SC業界のキーパーソンのゲストに迎え、その想いやビジョンを伺っていきます。

睿恪斯(上海)文化创意有限公司  董事 総経理( 株式会社レッグス 執行役員) 西島 賢氏(以下、西島氏)と、株式会社イースト エグゼクティブマネージャー 有吉利夫(以下、有吉)による対談をお届けいたします。

ゲスト: 睿恪斯(上海)文化创意有限公司  董事 総経理  西島 賢氏
ファシリテーター:株式会社イースト エグゼクティブマネージャー 有吉 利夫

既存事業ドメインを活かした新たなカテゴリー創出

有吉 本日はSCネットワークへの御出演ありがとうございます。コロナ禍のなか中国と日本を繋いでオンライン対談という形はまた新鮮ですね。SCネットワークは商業施設関係者向けのメディアですので、まず株式会社レッグス 西島様の事業領域について、簡単にご紹介ください。

西島 私の担当する範囲としては企業様の「新規出店施設のプロデュース」、「商業施設の演出」、「自社でプロデュースするポップアップカフェの展開・運営」などです。

有吉 多岐にわたる事業を展開していらっしゃいますね。

西島 もともとはキャラクターを活用した一般小売業向けのプロモーション事業からスタートし、キャラクターやタレントなどのIP(Intellectual Property)も扱いつつ、百貨店やショッピングセンターとのコラボレーションを行うようになりました。現在は中国にも進出し、新規商業施設のプロデュースも行っています。かなりニッチな存在ではないかなと自負しています。

有吉 そうした複合的な事業を通じて、現在のコロナ禍で変わった点はございますでしょうか。

西島 国内の商業施設様との取り組みでは、新規に「新しいカテゴリーをつくりたい」というケースと、「原点回帰したい」とご相談いただくケースの大きく二つのパターンがあります。後者の「原点回帰」という取り組みの際は、当然ながら店舗の収益性を見直して、収益性の高い店舗以外は閉鎖することになります。そのため、2割以上の空床がある商業施設様が増えてきているというのが現在の課題ですね。その空いた場所に通常より安い賃料で入居し、新しいことを始めようとするケースも目立ちます。

もちろん商業施設様もリーシングには苦労されていて、「こういうコンセプトで何かできないだろうか?」とご相談いただくこともあります。そんなときには今の事業ドメインを活かしつつ、「新しい業態を創造しませんか」というご提案をしています。

有吉 二つのパターン「新しいカテゴリー」と「原点回帰」も、「今の世の中に求められている課題」であれば、それはどちらも改めて新しい事業領域ですよね。

求められるのは「情報発信性」と「可変性」

有吉 「アフターコロナに向けてのニューノーマル時代」についてはいかがでしょうか。

西島 私は、今後3年で大きな違いが出てくるんじゃないかと考えています。

私たちが幼少期を過ごした80年代は百貨店全盛期でした。子供ながら百貨店に行けば何でもあると思っていましたし、全国の人々が衣食住のすべてを求めて百貨店に足を運んでいました。90年代は大型のSCなど商業施設が立ち上がってきて、2000年代になってアンカー店舗として家電量販店などが入居する、さらに巨大なSCが伸びてきました。その一方で同時期にはECが登場したことで、2000年代にはネットでモノを買うことが浸透し、さらに2010年代にはインバウンドという特需が生まれました。エリアによってはインバウンドの売上構成比が4割あるところも珍しくなく、アベレージでも15%から20%はあったと思います。ところが2020年代に入って「さあ、これからどうなるか?」というときにコロナ禍となり、特需が消えて、既存顧客も大幅に減るという状況になりました。

生活スタイルがどう変わっていくか、生活者自身にすら見えていません。だから企業側も攻めあぐねているというのが現実でしょう。その中で海外進出に力を入れる企業があったり、日本での地盤を盤石なものにしようとする企業もあったりするわけで、いずれにせよ今は焦らずにしっかり準備をしようと考える企業が今後伸びていくのではないでしょうか。

有吉 まさに、イチ生活者としての視点に自分も立ったときに、生活スタイルは確かに見えていないですね。それが企業視点になったときに、不動産賃貸業であるSCはオンラインとの向き合い方を模索したりと変化をとらえあぐねていますが、 変化対応業 である小売業の百貨店などはすでに少しずつ動き出しているように感じます。

西島 例えば、ECが伸びているといっても、売上の30%を超えるようなメーカーはあまりなく、まだまだリアルな買い物に大きなポテンシャルがあると見ています。ただ私どもでもメーカーさんと一緒に商品開発しておりますが、5年以上続くヒット商品は生まれません。以前のようにオリコンヒットチャート何週連続トップという商品はできないんです。パッケージをマイナーチェンジするなど、いかに目新しさを演出していくかが問われています。ファストフードだって以前は定番のハンバーガーがメインだったのに、今は季節商品のようなフラグの立つ商品が中心になっていますよね。

有吉 日常にある定番商品のパッケージが変わった商品や季節商品を目にする機会が増えましたよね。スターバックスのシーズン商品なんて衝動的に買ってしまいますし、SNSなどでも目にする機会が多いですし、店頭でのPOPも必ず目に入りますよね。

西島 求められてくるのは、「情報発信性」「可変性」だと思います。確かに郊外の住宅立地で、1店舗で全てまかなえるような利便性の高いお店も求められるでしょう。しかし、特に都心型となると、情報発信性と可変性がポイントになると思います。

有吉 私たちSCネットワークも「情報発信性」は重要なキーワードだと認識しています。日々商業施設関係者の方とお話しする中で、今までの「広告」というカテゴリで前年踏襲したことをやっていたら、今の時代のスピードに追い付けないのが現状です。例えば「ライブコマース」を実施して頂いたり、「インスタグラム」の活用方法を見直したりと、トライアンドエラーが必要になってきていると感じます。

西島 今は変化のスピードが本当に速いです。よく「一歩先でなく半歩先を追え」と言われますが、半歩先をキャッチアップしようとしている間にもうトレンドに置いていかれてしまっているような状況です。「そんな世の中で、常に新しいものを提案していくかが、情報発信性」だと思います。それを追求していくことが、今後のコト消費のキーポイントではないでしょうか。

本質に徹底的にこだわるのが中国ビジネスの強み

有吉 本日の2つ目のテーマである「中国ビジネス」において、御社では中国での事業にも力を入れていらっしゃいますね。中国ビジネスは、日本の3年先を行くと言われています。残念ながら日本の商業ではテクノロジー化の対応スピードが問題になり、中国に大きく立ち後れてしまいました。「テクノロジー化のスピードの速さ」の観点から中国企業と日本企業の大きな違いは、どういった理由がかんがえられるでしょうか。

西島 テクノロジーに関しては、「マクロで見れば政府の規制緩和や投融資」が大きな理由です。しかしそれ以上に大きいのが、「文化の違い」ですね。

中国の場合、とにかく「スピード優先」です。その背景には明らかに個人情報保護に対する日中の考え方の違いがあります。例えば中国では「Alipay(支付宝)」と「WeChat Pay(微信支付)」という2大モバイル決済アプリが、どんなアプリとも自動的に連携され、ノンストレスなユーザビリティが実現されています。それに対して日本では、企業側が個人情報に関しての責任を最小限におさえる為、ユーザーは様々な書面を読まされ、何かあっても企業に非は無いという合意をとった上で、様々な登録をします。法による保護のために仕方ないことではあるものの、そのためにハードルはかなり高くなってしまいます。

今中国で伸びているのは、「WeChat内で利用できるミニプログラムというアプリケーション」です。このミニプログラムを利用すれば飲食店でのオーダーなどは全部できますし、会員化の仕組みも必要ありません。「アプリをダウンロードしなくても、ミドルユーザーとしてアプリを活用するので、ミニプログラムで十分」という考えです。例えばWeChat内にハンバーガーショップのページがあって、ユーザーはそこでオーダーして決済したあと、ハンバーガーを受け取りに行けば良い。店舗にはレジもありません。その基本にあるのは、「どういう人に何を売りたいか」ということだけです。ハンバーガーショップにとってはハンバーガーさえ売れればいいですから、そこに特化してユーザビリティを上げていくわけです。

これが日本だと、データベースからマーケティングチームがユーザーのデータを管理し、どう役立てるかという話になってしまいます。対して中国ではツールとして徹底的に使っています。

有吉 確かにどれだけ本質的なことをシンプルに考えられるかで対応するスピードは大きく変わりますね。ビジネスが複合的になればなるほど、「本質」を突き詰める難しさを日々痛感しております。EC一つを考えても、日本だと「決済手数料」や「セキュリティ」の壁にあたります。

西島 もちろんWeChatではECも提供していますが、ECのプラットフォームとしてしかミニプログラムを捉えていないです。だから手数料もほぼないですし、コストは年間の契約フィー程度となっており、ごくわずかなコストで実装することができます。そういった点で各社は自社の事業ドメインは何かを考え、徹底しています。

有吉 人口で見た市場規模も日本とは決定的に違いますが、そういった環境背景もやはり影響しますか?

西島 それも大きな要因ですね。今後国際会計基準が導入されると収益体質を問われるようになるでしょうが、それでも中国の場合はまだまだ利益よりも売上のスケールが重視される傾向があります。

有吉 多少収益性が悪くても、店をどんどん増やしていくようなイメージでしょうか?

西島 売上が上がれば収益も規模の拡大で比例してついてくるという考えです。中国では「暴力的資本」なんて言い方をするのですが、ちょっと面白い企業があると暴力的なまでに資本を投入して一気に店舗を1000店舗に拡大することもありますよ。

資金のある人はヒットしている「店に投資する」のではなくて、「商品開発力のある小さな店舗に巨額の投資」をします。商品の開発力など根幹となる部分に期待して投資をしている形ですね。

有吉 最近のテクノロジーを活用した消費者事例としてはいかがですか。

西島 目につくのは、商業施設内の各店舗の店員がWeChatでグループをつくり、自分のお客に対してそこでお店の宣伝をするというケースです。日本ではショップの店員がインスタグラマーとして宣伝しますが、中国ではWeChatでできたグループの中で売り込みが行われます。可愛い店員さんに話しかけられてグループに入った、ということが当たり前のように行われています。日本だと店員が客と個人的につながることに対していろんなリスクがあるとネガティブに捉えられますが、中国だとそれがダイレクトに自分のお給料に反映するから、ためらいがないですね。そんな文化的な違いは大きいです。

日本では商売っ気の強い相手は嫌われますが、中国では初対面から「どんな仕事をしているの、一緒に稼ごうよ」という話は当たり前です。これも文化の違いだと思います。新しいものを採り入れていかに儲けようかという発想が当たり前にあって、それが今はデジタルに向いている。だからITの使い方がうまいんですよ。

レールから外れることを恐れるな

有吉 今までは「可処分所得=限られたお金」をどう自社に取り込むか、2010年代は「可処分時間 =限られた時間 」、これからは「可処分接点 =多岐にわたる情報の中での限られたタッチポイント 」をいかに商業施設は準備するかが大事だと思っています。

西島 商業施設は、若年層のトレンドをいかに取り入れていくかが重要です。日本人は、本来はとてもクリエイティブなんです。日本人自身は自分たちにクリエイティブセンスがないと思い込んでいるけれど、世界の人々は日本をとてもクリエイティブな国だと思っている。だから情報の発信性、可変性も、新しいことを生み出すのが得意な日本人にとっては決して難しくないでしょう。0から1を生み出すのが得意なのが日本で、1を100にするダイナミズムは中国がもっています。だから日本企業がグローバル企業とうまく連携すれば、もっと高い価値を発揮できると思いますよ。

有吉 これからの商業は今の20代がけん引して次の世代が担っていくという「パッションや考え」がすごく大事だと思っています。僕らミドル世代から、ぜひ若い世代に応援のメッセージをお願いします。

西島 繰り返しになりますが、日本のクリエイティビティは世界に通用することに自信をもって欲しいです。その上で20代の皆さんには、レールから外れていることを恐れないでいただきたいですね。日本ではレールの上を走るのが正しいことだと教えられていますが、そのレールが崖に向かっていたら終わりじゃないですか。だからレールという常識にとらわれず、砂利の上を素足で走る経験も大切にしていただきたいと思います。

有吉 なかなか勇気も必要になってきますが、そういったときに時代の変化を経験しているミドル世代のサポートも重要になってきますね。

本日は貴重なお話しをありがとうございました。

インタビューゲスト: 睿恪斯(上海)文化创意有限公司  董事 総経理  西島 賢 氏
ファシリテーター :株式会社イースト エグゼクティブマネージャー有吉  
SCネットワーク 企画管理:株式会社イースト 池田
       撮影・編集: 株式会社イースト 安藤