WithコロナにおけるSC開発・運営はこう変わる!【前編】

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島田 氏   一言で言えば、「従来のSCビジネスの収益モデルは通用しない」ということです。

 理由は大きく3点あります。

 それは、「有力テナントの減少」「業種構成の変化」とそれに伴う「賃貸収入の減少」です。

新設SC平均面積と構成テナント数推移(2019年)

島田 氏   第一の「有力テナントの減少」は、過去13年間の新設ショッピングセンターの平均面積と構成テナント数の推移を見れば明らかです。

 リーマンショック直前が最も施設面積が広くて27,791㎡ 、テナント数は平均82店でした。
 それがリーマンショックで一気に下がり、その後、東日本大震災でさらに下がりました。昨年の平均面積は15,839㎡で、テナント数も平均50店ぐらいです。
 構成店舗数の減少は、1店舗あたりの面積の大型化にも原因がありますが、いずれにしても郊外の大型ショッピングセンター開発は、もう飽和点に達していると見ていいでしょう。

 第二の「業種構成の変化」ですが、テナントの業種構成比を見ると、この10年で「物販」(アパレル、ファッショングッズ、食物販含む)の比率は下がり続け、最近では50%台に減少しています。

 現状、ショッピングセンターの収益面で重要な、アパレルやファッショングッズ等の有力テナントも減少し、反対に賃料が低いサービス系テナントが増加傾向にあり、このことがデベロッパーの営業収支にダメージを与えています。

新設SCのテナント業種構成比推移

長島  確かに弊社も様々なショッピングセンターで、売上管理業務をしていますからその点は実感する所ですね。
 具体的に既存施設の賃料減少はどのような状況なのでしょうか?

 

島田 氏  過去10年間の既存ショッピングセンターの総合賃料(賃料+共益費を含めた坪当たり賃料)の推移を見れば、ここ数年物販賃料は3万円台を割り込んでいました。
 2018年は比較的人気物件が多かったことで、久々に3万円台を回復しましたが、2009年の賃料水準をピークとすれば、ダウントレンドにあることに変わりはありません。2015年以降は飲食と物販の賃料が逆転するという“異常事態”が続いていました。

 しかもこれはあくまで「コロナ前」の話ですから、2019年の集計はかなり深刻な数字になるのは容易に想像がつきます。

既存SCの総合賃料推移(全国平均値)


長島  賃料収入に頼ることができないとなると、ショッピングセンターのビジネスモデルそのものを見直さないといけないのでしょうか?

島田 氏  これまでデベロッパーの営業収益を支えてきたのは物販、特にアパレルテナントの賃料でした。
 しかし、現状のアパレルテナントの多くは今回のコロナの影響でさらに売上が激減し、店舗縮小やブランドの統廃合が加速し遂には廃業する所も出ています。

 コロナ前からアパレル業界は構造的な問題を抱えていますから、当面このダウントレンドの流れを変えることは難しい。
 ということは、ショッピングセンターのこれまでのビジネスモデルの考え方を「根本的に変える」必要があるわけで、これが私の言う「本質的な問題」なのです。

モノが売れない理由は、“人口”と“所得”減少だけではない

長島   少し視点を変えて、島田さんから見て今後の日本における社会の変化と、小売業の関係性についてはどのような見方をされていますか?

島田 氏  明るい話をしたいところですが、残念ながら今後の日本の小売業はあらゆる意味で、さらに厳しい局面を迎える事になるでしょう。

 一般的にはその最大の原因は「人口減少」「所得減少」が常態化するからですが、実は小売業に関しては日本固有の問題点が隠れています。

長島   それはどのような事なのでしょうか?

島田 氏  現状の日本はコロナの影響を受け、企業倒産や失業により収入を絶たれ、生活に困窮する人が増えています。

ただ一方で諸外国、特に私が重点視察するASEAN諸国に比べれば、日本は安くて品質の良い物で溢れていると感じます。

島田 氏   例えば100円ショップの商品は、実用面で最低レベルの品質はクリアしているし、ユニクロやGU、最近ではワークマンプラス、ニトリの商品は手ごろな値段で機能面でも優れている。
 コンビニやスーパーに行けば低価格でお腹を満たせる商品で溢れている。皮肉なことに日本のデフレが長期化したことで、生来の日本企業の生真面目なモノづくり体質が、低価格でも一定水準を超える商品を生み出し、それらを前向きに選択するライフスタイルが定着しました。

長島  確かに最近のユニクロやワークマンプラスの商品を見ていると、機能性だけではなく、以前よりファッション性も高くなってきたと感じます。

島田 氏  同感ですね。ここまで低価格で高品質な商品を提供され続けた結果、生活者の消費マインドは「これじゃないとダメだ」という“こだわり消費”から「これで十分じゃないか」という“身の丈消費”に変わってしまった。
 このような消費マインドが支配する中で、新たにモノを売っていくことは相当に難しい。そこにさらにダメ押ししたのが、今回のコロナという事です。

長島  SC業界として厳しい現実を受け入れるとするならば、その荒波を乗り越える手立てはあるのでしょうか?

島田 氏  難しいのは、人口や所得、就業人口を増やす事は政府の中長期的な施策であり、イチ小売業やSC業界の力ではどうにもならない事です。
 そもそも前提となる、日本の国力自体が低下しているのですから。

 出来ることはただ一つしかありません。それは一刻も早く我々自身が現実を受け入れ、未来に向け自らを「変革」するしかない。
 これまでのSCビジネスの考え方や在り方を、根本から変えていく必要がある。
 しかもできる限り短期間のうちにです。

後編はこちら

インタビューゲスト:株式会社西武プロパティーズ マネジャー 島田 隆 氏
インタビュアー:株式会社イースト 代表取締役 長島 秀晃
SCネットワーク 企画管理:株式会社イースト 事業創造部 有吉
執筆・編集・撮影管理:SCネットワーク チーフエディター 池田

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