WithコロナにおけるSC開発・運営はこう変わる!【後編】
NEWS
時代が大きな転換期を迎えている今、SCはどのような未来を目指そうとしているのでしょうか。このシリーズでは、SC業界のキーパーソンをゲストに迎え、その想いやビジョンを伺っていきます。
今回は、SC業界内で屈指の情報通であり「論客」としても知られる、株式会社西武プロパティーズ 島田隆氏(以下、島田氏)に、「Withコロナ」における「SCビジネスの在り方」について、弊社代表の長島とのロングインタビューを2回に分けてお届けする【後編】です。
【前編はこちら】
インタビューゲスト:株式会社西武プロパティーズ 島田 氏
インタビュアー:株式会社イースト 長島
キーワードは「ダウンサイジング」(規模縮小)、と「コンバージョン」(用途転換)
長島 今後のSCビジネスの改善点について具体的に教えてください。
島田 氏 いわゆる“Withコロナ”における、向こう3~5年間のSCビジネスに対する処方箋を一言で言えば、よほどの好立地や人口増加地区以外での新規開発は「ダウンサイジング」(規模縮小)、既存施設は「コンバージョン」(用途転換)で乗り切れという事です。
「安心・安全」「快適空間」「利便性」など、SCの持つ普遍的な機能は堅持する一方で、「人口減少」「高齢化」「所得減少」というリアルな問題への対処は、かなりドラスティックな意識改革が必要です。
例えば新規開発については、
➀ヒューマンスケール (適正規模)
➁複合化(商業以外の用途の組み合わせ)
③個性化(施設デザイン、テナント構成等)は、避けて通れないでしょう。
長島 島田さんが仰る「ダウンサイジング」(規模縮小)とは、どのようなイメージですか?
島田 氏 「投資効率」、将来的な施設維持の為の「費用削減」を前提に、施設をコンパクトにするということです。これが「ヒューマンスケール」=「人が買い回りしやすい規模感」に繋がっていくはずです。
長島 確かに大型SCは目的の店までたどり着くまでに、かなり歩かされることが多くて疲れてしまう事も多いですね。
島田 氏 弊社の場合は、駅ビルタイプの施設が多いのですが、自社や他社施設の運営状況を見ると、賃貸面積で1~2万㎡程度あれば、食品からファッション、雑貨、書籍、飲食まで、商業施設として必要最低限の機能は一応網羅できると思いますし、何より売上効率がいいはずです。テナントの坪当たりの売上が高くなれば、変動賃料でもデベロッパーの収入は確実に増えるし、固定賃料だとしても次の契約更新の時に適正な賃上げを可能にする根拠になります。
長島 施設規模が大きいことによる、メリットはどう感じていますか?
島田 氏 面積が大きければテナント数も増えるし、シネコンやアミューズメント機能等を加えて、新たな魅力も付加できるでしょう。
郊外SCであれば、競合との対抗上有利かもしれませんので一概に否定はできません。ただ反面で施設が多層構造になることで回遊性が悪くなるなど、お客さま(特に高齢者)にとってはデメリットも多い。
それに規模が大きくなればその分投資額も増えるし、将来的な維持・管理費も高額になる。
その時にテナントから規模に見合っただけの賃料が取れなくては、そもそも商業開発をする意味がありません。
無意味に施設面積を増やし無駄なコストを増やすよりもむしろ抑制し、その分施設の環境整備やIT化やDX(デジタル・トランスフォーメーション)関連の整備費用に振り向けた方が得策ではないでしょうか。
あまり夢の無い話のようにも聞こえてしまうのですが、 日本の人口減少は、10~20年で解決が付く問題ではありません。仮にある年に新生児が大量に生まれても、彼らが消費の主役になるまでは数十年かかります。
それまでの間、既存施設は持ち堪えられるのでしょうか? 人口が減少し小売の市場規模が縮小しているのに、これまでのように大型SCを作り続ける必要性はあるのでしょうか?あるいは都市部の駅前開発に見られるように容積緩和措置を受け、無理やり商業床を増やしたところで、想定賃料を出せるテナントはいるのでしょうか?
そういうリアルな問題に対して、真剣に考えなくてはいけない。
長島 冒頭仰っていた「コンバージョン」(用途転換)において、施設全体の構成を異なる業種・業態で構成する「施設複合化」の流れがありますが、その点についていかがでしょうか?
島田 氏 既に事例はいくつもありますが、改めて今後の商業開発は商業施設単体の営業収益ではなく、オフィス、ホテル、賃貸マンション、公共施設等の商業以外の収益ミックスを前提に考えるということです。海外では地価の高い都心部だけでなく、郊外でも複合開発が前提となっている事例はいくらでもあります。私は商業機能単独でSC開発する日本の方が、むしろ“特殊”だと思います。
私が見るところ、課題が多いのは今から約20~30年前のバブル時代前後に、全国に大量に作られた駅ビルや郊外SCだと考えています。その多くが「施設面積が広すぎる」「多層階構造で回遊性が悪い」等、建物構造の悪さに共通点が多く、SC売上の減少から長期間のテナントの空室が常態化しています。
単純な話、空室が常態化するならば、思い切って施設の「減築」「減床」工事をして、貸床面積を減らして適正規模にするのが理想です。
しかし、ゼネコンは建物を作るノウハウは豊富ですが、既存の建物を減築するノウハウは極めて少なく、家のリフォームと同じでコストもかかる。ならば商業床以外の用途で賃貸するしかないという事です。加えて恐ろしい事に、バブル時代に開業した既存施設の多くは機能維持の為、今後数年間で数十億円単位の大規模修繕が必要になってきます。遅かれ早かれバブル時代に作られた既存施設の多くは、今後“バブル時代の清算”をどのようにつけていくかが問われますね。
長島 弊社も地方都市の商業施設の運営管理業務のお手伝いが多いのですが、確かに最近では行政施設やサービス系業種のような、非物販業種の増加は顕著に感じます。
島田 氏 今から20年前迄はSC内に、行政の図書館や集会所などを入れるのは嫌がられました。まず賃料が取れないし、営業時間が異なることで運営管理に手間がかかりましたから。
しかし、今は逆でむしろ図書館や集会所、あるいは病院などで「床を埋めてもらいたい」というふうに変わってきています。
行政側も歳出の抑制から、いくつもある図書館や集会所を集約して便利な駅ビルに入れた方がいいという発想になってきた。もちろん地域にそうしたニーズがあるか、行政にそれだけの投資ができるかということが問われる為、簡単なことではないと思いますが。
長島 最近のコロナ禍で言えば、今後は郊外SCにもシェアオフィスの入居ニーズも増えそうですね。弊社の社員もモバイルパソコンさえあれば、リモートワークできる環境になっています。
島田 氏 行政施設でなくても、シェアオフィスやレンタル倉庫、または運送会社のラストワンマイルの荷受け拠点、究極は自社の事務スペースへの転用等、商業床の用途を変えて活用するという発想が当たり前になってくるでしょう。
求められる変革への意識と効率運営
長島 デベロッパーにはそうした柔軟性が求められるようになってきたということですね。
島田 氏 はい。ただし、そうなると当然デベロッパーはこれまでのような収益は確実に見込めなくなるので、「①運営管理要員の削減又は無人化」、「②複数施設のリモート運営」は避けて通れないでしょう。
だからこそ運営管理業務の「①IT化」、「②簡素化」、「③アウトソーシング化」などによる業務改善が必要になります。
どちらにせよ多くのSCは、従来の業務内容を変革しない限り収益は下がる一方です。
もちろんこれまでも要員の削減は行ってきましたが、業務内容自体が変わらないのに人だけを減らせば、現場の業務負荷は以前よりも重くなり、労務管理上も好ましくありません。
むしろこの問題は、現場よりも本社がいかに「現場をバックアップできる体制を作れるか?」の方がより重要になってくるでしょう。
長島 確かにショッピングセンターはこの20年ほど仕事の進め方が変わっていない、労働集約型に近い、珍しい業界だと思います。しかし、手間をかけただけ収益が上がる時代は終わったのだから、IT化やDXは避けては通れないです。
業務改革をするというこの壁を乗り越えるのは簡単ではないと思いますが、いかがでしょうか?
島田 氏 改めて「仕事」と「作業」の区分けを明確にしなければいけない。
例えば、今までは資料を作ることが「仕事」だったかもしれないが、これからは違う。
資料作りはアルバイト等でもできる作業で、社員はその資料をもとに「何が課題で、何を解決しなければいけないのか?」「その行動や活動で得られる成果は何か?」というPDCAサイクルを常に念頭に置き行動することが「仕事」です。
加えて現在のように想定外の事態が多く起こる時代には、現場のスタッフは状況に応じて、即座に最適な意思決定が必要な局面が増えます。
今後は従来のPDCAに加え、「OODAループ」(ウーダーループ)的な思考も今まで以上に必要になるでしょう。
結局、IT化やDXを進めるのは、業務の「生産性向上」を目指すわけだから、既存業務の標準化、簡素化に踏み込まなければ解決しないはずです。
デベロッパーは“家賃至上主義”から“インキュベーター”としての役割を自覚しよう
島田 氏 今回のコロナ禍を経て、「Withコロナ」における今後3年間でデベロッパーが取り組むべき5つの事柄をまとめました。
長島 島田さんの提言を見るとデベロッパーの立場でありながら、現在のデベロッパーのテナントに対する姿勢にも、厳しい目線で見られているようで大変興味深いです。
島田 氏 私自身が元アパレル出身である事もありますが、ここ数年のアパレル業界の商品デザインや品質の低下は著しいです。
その原因の多くはアパレルメーカーが自社での商品開発よりもOEMやODM(※)生産を優先し過ぎた結果だと思います。
しかし、全てとは言わないが、彼らをそのような状況に追い込んだのは、我々デベロッパー側にも責任の一端はあるという事です。
特に業界で主流の定期借家契約の趣旨には賛同しますが、ここ数年はやや極端なデベロッパー優位の賃貸条件や、契約期間の短期設定等が多すぎる気がします。
※いずれの生産方式も食品、家電、自動車、衣料品等では、企業の生産性向上の観点から一般的な手法として知られる。特に技術力はあるが、起業して間もなく経営資源が脆弱な企業にとっては、短期的な事業と収益拡大施策として有効な手法でもある。(島田解説)
OEM:Original Equipment Manufacturing又はOriginal Equipment Manufacturerの略。一般的に委託者が製品設計から製作、組み立て図面にいたるまで受託者へ支給し、場合によっては技術指導も行う生産方法。技術提携や販売提携と並んで企業の経営効率を高める目的で採用される。
EX)Apple社のiPhoneやiPad等の製品は、台湾のFOXCONN(鴻海科技集団)が製造
ODM:Original Design Manufacturingの略。OEMの進化・発展型とも言われ、一般的には製品設計から開発まで一貫して自社開発で行う生産方式。 時に消費者ニーズを捉えるため、マーケティング調査や販促までも自社で行うケースもある。また複数のブランドの製品開発、物流や販売までも一貫して提供する企業もある。
EX)NTT docomoのブランド名で販売されるスマートフォン(SONY、富士通、京セラ等)
長島 具体的にはどのような事なのでしょうか?
島田 氏 例えば、一部のデベロッパーは「家賃を高く取り過ぎ」で、テナントに「儲けさせる期間」が少なすぎる。
彼らにしてみれば初期投資を取り戻すには、5年契約でも厳しいはずだが、それで3年契約とかではあまりに期間が短い。また売れている店でも契約満了で出されてしまうか、首尾よく残れたとしても賃料アップで他の区画に移動させられた挙句、再投資させられたのではいつまで経っても儲けられない。
だから短期間で投資回収するためには、粗利を高く取れる商品を短期間で開発しなければならない。
それが多くのアパレルをOEMやODM生産に走らせる原因の一つになったと考えています。
長島 島田さんの提言にある「家賃至上主義からの脱却」から続く、一連のキーワードにはそのような意味が込められているのですね。
島田 氏 結局、自分達の都合で収益を刈り取る事ばかりに専念した挙句、遂に畑には刈り取るべき”作物”(テナント)が無くなってしまったのが、現在のSC業界の姿ではないでしょうか。
その反省点に立てば、今後は刈り取った畑には新たな作物の種を蒔き一定期間大切に育てる事、つまりインキュベーターとしての役割を果たすのが、これからのデベロッパーの重要な仕事の一つになる。
SC業界だって一般の産業界同様、「サステナビリティ」(持続可能性)を意識しなければ成り立ちません。
長島 言われている趣旨は理解できますが、そのことでデベロッパー側に問題は発生しないのでしょうか。
島田 氏 私が提言したキーワードを実践することは、一方でデベロッパーの収支を圧迫してしまうことにも繋がります。
それでも実践し続けるには「ローコストオペレーション」と「ロジカルなテナントサポート」が必須となります。
すなわちITやDXを取り入れた従来型の管理体制からの脱却です。またデータ化が当たり前の昨今、顧客の購買情報や行動分析をしっかり行った営業・販促をテナントと共に考え、実行することが大前提となります。
その意味でも長島さんの会社には、今後ともSC運営管理に関する課題・問題の解決に向け、新たなサービスやシステムの提供に努めていただくことを期待しています。
長島 弊社でもSC業界全体がいい方向に向かうよう、DXは必須と捉えております。
テクノロジーを活用した新サービスもどんどん展開できるよう引き続き尽力したいと思います。
今回は、貴重なお話し誠にありがとうございました。
【前編はこちら】
インタビューゲスト:株式会社西武プロパティーズ マネジャー 島田 隆 氏
インタビュアー:株式会社イースト 代表取締役 長島 秀晃
企画管理:SCネットワーク 有吉
撮影・執筆・編集: SCネットワーク 池田 / 八重樫
GUEST:島田 隆(しまだ たかし)氏
1960年(昭和35年)東京都杉並区生まれ。
大学を卒業後(株)鈴屋に入社し、吉祥寺店スーツ部門バイヤーを経て、西武商事(株)(現:西武プロパティーズ)に転職。
新横浜プリンスぺぺ、飯能ペペ等の開発・運営業務、本川越ぺぺ支配人、顧客カード分析、商業マーケティング、販売促進、CS推進業務を経て、2019年4月より現職。 実務の傍ら、国内の有力商業デベロッパー約50社が集う交流団体「商業施設連絡会」(SC-net)の創設者としても知られる。
約20年前から中国やASEAN諸国の商業施設・小売業の成長性と将来的な発展を予見。現地視察を通じてその最新動向について業界誌執筆や講演活動を行い、それまで「欧米情報一辺倒」だった、SC・飲食業界に一石を投じたことで注目される。
【趣味】マイルを貯めての海外旅行とホテル巡り、資産運用