SCのDX / OMOを考える
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新価:SCに求められる新しい価値とは
有吉 SCに求められる「新価:新しい価値」については、どのようにお考えでしょうか?
石神 氏 それは、たぶんまだ誰も見つけていないと思います。
この新しい価値が今後のテナントやSCの持続的な発展に結びつくのですが、コロナ禍の中でこの価値を見つけられていないので、みんな苦しいのでしょう。
有吉 今までSC業界は成長産業で、デベロッパーはテナントを選ぶ側だったと思います。
しかしテクノロジーが進化し、ECも台頭、さらにはコロナ禍もあって、これからはデベロッパーがテナントに選ばれる側になるのではと思っております。
そのあたりはいかがでしょうか?
石神 氏 その解のロジックとして、3つの要素からの紐解きが重要かなと私は思っています。
~1:テナントの強み(テナントとの協働)~
一つ目に、個々のテナントは顧客が抱える課題に刺さる具体的なソリューション(商品やサービス)を保有しており、顧客が場所や時間に制約されることなくこれらにアクセスできるよう、オフラインとオンライン双方に入口と出口を整備し、顧客接点の拡張を図っています。
SCに求められることは、テナントの取組みに対する拒絶ではなく、どのようにテナントと協働すべきかを考えることであると考えます。
~2:SCの本質(プラットフォームとしての役割)~
2つ目は、SCビジネスの本質は様々な課題を抱える生活者と、それら課題に効くソリューションを有するプロ集団(テナント)をマッチングして収入を得るツーサイドプラットフォームビジネスであります。
しかしながら、現在のSCは「モノ型消費にフォーカス」した構造で停滞しており、今後のSCターゲットの主軸となってくる、ミレニアル世代~Z世代の嗜好や行動特性に応じたプラットフォームは未だ形成できていない状態です。
~3:売り場発想から脱却できていない(OMOの世界観の欠如)~
3つ目は、各テナントがデジタルシフトする中、販売員を主軸にオンライン・オフラインを問わず、商品・コーディネート・ライフスタイルの提案を実現、出口としてのプラットフォームも構築し始めている。
一方、SCでは様々な取り組みがなされているものの、どこか手段が目的化しているように感じます。
具体ソリューションに捉われた施策ではなく、何のための施策なのか考えながら進める必要があると思います。
有吉 では、この紐解いた要素から具体的にどういった施策をお考えですか?
石神 氏 この要素の施策として、
~1.テナントとの協働は不可避~
SCは、テナントのように商品やサービスといった具体的ソリューションを自身では保有していないが、SCの中には多様なソリューションを擁するテナントが存在しており、それこそがテナントにはないSCの強みであると思います。
ゆえに、各テナントの個性やブランドストーリーを束ね、様々な課題を抱える生活者がソリューションを探す入口(ポータル)を提供することこそがSCに求められる役割であり、テナントとの協働の道筋だと思います。
具体的な手段としては、彼らが元々保有しているオンラインコンテンツをSC側のプラットフォームへ連携することによって、テナント(スタッフ)に負荷をかけることなく、各テナントの接点を設けることができると考えます。
~2.SCの役割(プラットフォームビジネス)~
ジェネレーションX世代に対しては、現在のリアル店舗の集合体であるSCの形でプラットフォーマーとしての役割は一定程度果たせていました。
ミレニアル世代及びZ世代に対しては、「リアル店舗の集合」のアプローチだけでは弱いのが現状です。
SCビジネスの本質であるツーサイドプラットフォーム(顧客とテナントをつなぐこと)を踏まえ、テナント単体では実現できないSCならではの課題解決として、その課題を集合で捉え、テナントを横断したSCとしてのメッセージ性を伴ったソリューションを提示することが彼らを突き動かす上で必要です。
~3:OMOの体現(オンライン・オフラインを問わない世界の構築)~
ミレニアル世代、Z世代にとって、オフラインとオンラインを個別に意識してはおらず、二つで一つの世の中を形成しているものであると思います。
ゆえに、テナントと同様に、オンライン・オフラインを分離せずに、シームレスに繋がった仕組みの構築が必要です。
SCの現場で、圧倒的に不足しているコミュニティの形成をし、“入口”を強化し、また自社のプラットフォームで決済できる仕組みとして“出口”を構築することで、OMOの世界観を体現することが求められます。
有吉 なるほど。
では、仮説のもとテナントに「このSCだったら出店したい」と思ってもらうためには、御社としてはどういったサービスやシステムの構築をお考えでしょうか?
石神 氏 一つは「教育」です。
例えばSNSを入り口とした動画配信による顧客とのコミュニケーションにおいても、写真の撮り方、コメントの書き方、商品の見せ方などを我々デベロッパーがテナントに教えてあげるということです。
有吉 テナント教育の一環としてのテナントが配信するための動画研修は、世の中でまだ行われていないことだと思います。それを今回、ミレニアル世代・Z世代に注目される大手コンテンツ企業と協業して、私どもで担当させていただき、ありがたく感じています。
こちらも先ほどお話しさせていただいた、テナントとお客様を繋ぐ一つのやり方として、動画をどう活用したらよいかの一つのPOCと捉えております。
デベロッパーがここまでテナント目線で研修をトライすることはなかったように思うので、新しい取り組みだったのかなと思います。
石神 氏 SC目線での研修や広い意味でのテナントのための教育といった意味では、実施しているところも多いかと思いますが、テナントと顧客が具体的にどのようにコミュニケーションを取る教育といった意味合いではあまりなかったように思います。
二つ目は、「OMOを展開する中で、お客様の求める課題解決との間に溝が生じているという点への対応」です。
具体的には現状のOMOの触りは、コマース感が強いということ。
本義的にコマースをそこまでお客様が求めているのか?OMOが売り手のコマースによりすぎているのではないかということです。
原因としては、依然としてプロダクトアウトの思考がまだまだ強いということ。
自社独自のOMOとのカニバリゼーションが起きていることだと思います。
有吉 なるほど。
デベロッパー側もOMOの出口部分を構築しようとすると、どうしても投資が必要になり、求められるコマースの結果に意識が向いてしまいますよね。
OMOはコロナ禍もあり、急速な思考チェンジを我々ベンダーも求められていますね。 ここでの新価を全国のSCも模索しているといったことでしょうか?
石神 氏 テナントがSNSで情報発信しながら自社ECにお客さんを誘導すると、SCの立場としては「売上が立たないのでやめてくれ」と言いたくなるのですが、リアルの価値を上げていくことがSCの本質なのですから、商圏の顧客を館に呼び込んでそれぞれのテナントに送客していく点では変わらない。
ですから、テナントが何をやっているかではなくて、「テナントとSCが協働して取り組んでいく」といったことが重要でしょう。
有吉 すごくわかります。
ちなみに協働することにおいて、既存のSCとこれからの新規出店SCで、また手法や段階が変わってくるんじゃないかと思っていますがいかがでしょうか?
石神 氏 そうですね。店舗の仕組み、什器の置き方、スタッフの配置、人件費のようなことは出店の段階でOMOやDXを前提としないで計画されたものですから、SCの提供する新しいソリューションとはどうしてもマッチしません。
従って今後は、出店の段階で我々のOMOやDXを価値として理解していただき、差別化につなげていくことが大事だと思います。
有吉 差別化っていう言葉はあまり僕個人的には好きではないのですが、本質的な課題に向き合った結果、差別化ができ、テナントに選んでいただけるSCになることそれが本来の姿なのかなと思います。
石神 氏 出店する段階でOMOやDXを含めた我々のソリューションに対してご理解をいただけると、例えば飲食系の業態ならホールスタッフを3分の1にできるはずで、人件費を含めたテナントコストをかなり下げられるでしょう。
出店のハードルも下がりますし、我々の共通インフラに乗っていただければCSとしても共通の施策を打ちやすくなる。
お客様に対して共通の価値を高い水準で提供できると思います。
“DX=先進テクノロジー”とは限らない
有吉 最近はDXという言葉が流行りのようになっているのが、ちょっと気になっています。
デジタル、テクノロジーの加速は数年前から言われていたことですが、DXという言葉が流行り始めていること自体に疑問を感じます。
石神 氏 どういったことでしょうか?
有吉 例えば、当社ではAIチャットボットサービスを開発しました。
当社にはインフォメーション業務のノウハウが20年近くありますので、そのノウハウを活かしつつ、AIチャットボットで業務効率を上げていくわけです。
これによって今まで3人必要だった業務が2人のオペレーションで済むようになれば、1人分の人件費の削減になります。私はこれがDXのあり方だと感じており、「人件費を落とすためにはどうするか?」という課題が先にきて、それをテクノロジーで業務改善を行う。これがDXだと思っています。
石神 氏 DXの定義自体が広いので「これが」というのは難しい気もしますが、DXの具体例としては理解します。
インフォメーションの業務一つとっても、多種多様な問い合わせがあり、忘れ物、落とし物、店舗案内、クレームなどさまざまです。
問い合わせの多いものに対してはデジタルシフトして対応していくのは非常に良いことと私も思います。
有吉 ぜひ御社でも導入検討はいかがでしょうか?
石神 氏 実は落とし物・忘れ物のお問い合わせが非常に多いので、その部分を業務から切り離すことで、人件費が減るという声は現場から上がっています。ぜひ検討したいですね。
有吉 ありがとうございます。
チャットボットをつくれるサードパーティーは数多いですが、弊社にはインフォメーションで培ってきたノウハウが豊富にあり、またシステム分野はコア事業でもございますので、またその件につきましては改めてお話しさせてください。
KPIを気にせず、トライ&エラーで走りだそう
有吉 今までのSC業界は成長産業だったので、縦割りに部署を増やして担当の作業だけをやっていればよかったと思います。
しかし、これからのSCの展開においては縦割りが弊害になってきていると感じております。
どれだけ横の連携をさせてメタ思考でやっていけるかが重要ではないでしょうか?
過去の否定ではなく、過去から学んだ成長志向として、今はライン生産からセル生産にシフトしていくにあたり、縦割り組織こそボトルネックだと私は考えています。
石神 氏 確かにSCに来てくださるお客様の世代が変わってきて、趣味・嗜好ももちろん変わってきました。
これはどこのSCでも理解していて、対応しなくてはならないとわかっています。
しかし、じゃあ明日から自分たちの仕事内容を変えていけるかというと、簡単ではない。
1日8時間の勤務時間内でせいぜい5分から10分はそれを気にしているけれど、残りの90%以上は従来型の業務に費やしているというところが、既にフリクションを起こしていると思いますね。
有吉 そうですよね。
日本はこのまま推移すると65歳以上の人口比率が2050年には45%を超えていく予測が立てられています。
つまり2人に1人が高齢者という時代がくる。
それを踏まえた上で今SCが次を見据えて動いていかないと、SCが衰退産業になってしまうのではないかと危惧しています。
石神 氏 高齢化社会で見ていくと、多くの産業が変わっていく必要があると思いますし、そういった動きも多いですよね。
SCも例外でなく市場に合わせて変わる必要があります。
私が一番懸念しているのは、社内の部署の仕事が変わっていないということです。
結果としてハードは変わっても、ソフトの部分でコミュニケーションが取れなくなるんじゃないでしょうか。
ニューヨークでは、かつては馬車が走っていた道路を13年後にはフォードの車が走っていたという大変化が起きました。
誰がこの変化を想像できたかというと、誰も想像できていないんです。
恐らく今も同じで、近い将来どうなるかなんて、誰にもわからないでしょう。しかし、確実に変わっていく。
それに対して、仮説を立ててトライ&エラーできる組織に変わっていかないと厳しいのではないかと思います。
有吉 有名な例で言うと、2005年と2013年のローマ法王のスピーチ写真でアップルが変えたスマホと一緒ですね。
石神 氏 ただ、その時にネックとなるのが、投資効果やKPIということだと思います。
有吉 確かにわからない未来に対してアクションを起こそうとするとき、KPIを問われても答えられるわけがありませんね。トライ&エラーで進むしかない。
その時に私たちがマルチベンダーという立場でご一緒できれば、次のSCの成長軸を描けるんじゃないかと考えています。
石神 氏 例えば今描くOMOであれば、SNSのフォロワーをどれだけ伸ばせるとか、ライブなら視聴者数をどうするとか、オンラインメディアならどれだけのPVが稼げるかといったような仮説を立てながら、どの程度の閾値 (≒ライン) を超えるとマネタイズできるかといったことを示し、分析することも大切でしょうね。
20代へのメッセージを
有吉 私たちもアラフォーです。是非、今の20代へ向けてメッセージをお願いします。
石神 氏 日々の業務量の多さに埋没しているとは思いますが、私としてはもっと自由に、楽しくやって欲しいと思います。
ただし、やりたいことを実現するにはどうすればいいかということは、もっと勉強して欲しいです。
有吉 私も同感です。
勉強はいくつになってもできますし、それを笑う人は無視していくことかなと思っております。
具体的に努力するポイントはいかがでしょう?
石神 氏 テナントさんは店長さん、スタッフさんが日々の売上を達成するために努力しているのに、我々はその意識が少し希薄なんじゃないかなという気がするんです。
不動産賃貸業の業績はテナントさんの売上に連動しているわけですから、テナントさんの売上をさらに伸ばすために、もっと努力すべきだと思います。
飲食フロアの担当だったら、それこそ毎日、 そこでご飯を食べるくらいでないと見えてくるものにズレが生じやすくなると思います。
有吉 私もサブPMに居る時は毎週必ず食べてました。
次の世代を育てていくのも我々ミドルマネージャー世代の重要な役目ですね。
このSCネットワークを立ち上げた目的としては、どうしてもSC業界は閉鎖的で属人ネットワーク網が強いので、このメディアを若い世代代方々も有効活用して頂けると嬉しいですね。
今回は貴重なお話し、また対談頂きまして誠にありがとうございました。
インタビューゲスト:JR西日本SC開発株式会社 石神 孝浩 氏
インタビュアー:株式会社イースト 有吉 利夫
SCネットワーク 企画管理:株式会社イースト 事業創造部 有吉
撮影・編集: 株式会社イースト 事業創造部 池田