DXの具体的な取組事例 決済ソリューション「.pay(ドットペイ)」

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時代が大きな転換期を迎えている今、SCはどのような未来を目指そうとしているのでしょうか。このシリーズでは、SC業界のキーパーソンをゲストに迎え、その想いやビジョンを伺っていきます。

 今回は、決済ソリューション「.pay(ドットペイ)」を立ち上げた、東急株式会社 松藤京介氏(以下、松藤氏)に、「DXの具体的な取組事例」として決済ソリューション「.pay(ドットペイ)」について、インタビューをさせていただきました。

DXの取組として開発コンセプトは“部品”

有吉 本日は対談の機会を頂きまして、誠にありがとうございます。 まずは、読者の方に向けて松藤さんのこれまでのご経歴や実務を教えて頂けますでしょうか?

松藤 氏 私は2008年に東急株式会社に入社以来、主にマーケティング畑で活動してまいりました。 例えば、カード会員のデータを見ながら顧客の購買を予測して、ショッピン グセンターの販促コンサルを行うなどです。

東急ではショッピングセンター、百貨店、スーパー、さらには鉄道やバスなど、さまざまな事業を通じて顧客のデータが得られるので、それらを活用したマーケティングコンサルティングを行っておりました。途中、東急カードに出向してクレジット事業にも携わりつつも入社以来10年以上にわたって、マーケティング畑で若い時代を過ごし、顧客の行動分析や巨大なデータベースも自ら構築し、企画提案や新規事業開発をしてきました。マーケッターと言うのですかね。

有吉 ありがとうございます。 マーケティングはこれからの時代、ビックデータで蓄積されたものも、「解」を出すのは最終的に「人」がかかわる部分ですので、今後AIが浸透してきても必要な分野ですよね。

現在さまざまな業界・業種でDX(デジタルトランスフォーメーション)の話題が出ていますが、この場ではできるだけ具体的な事例を取り上げていきたいと思い、松藤さんにお話を伺わせていただきたいと思います。

これまでよく見られるアプリは、ただのポイントや情報発信だけといった、デジタルのトランスフォーメーションが少ないと感じています。 東急さんの取り組んだ新しいスマホ決済ソリューション「.pay(ドットペイ)」は、今までのアナログな現金決済をアプリ一つで非接触決済ができるようにしたことはかなり画期的なことで、これは他のデベロッパー企業も関心が高いと思います。

松藤さんには、東急さんがなぜ「.pay(ドットペイ)」を立ち上げたのかという点から伺わせてください。

.pay(ドットペイ)

 

松藤 氏 まず「.pay(ドットペイ)」とは、販促機能を1まとめにした、決済連動型の販促ソリューションです。東急とNTTデータの共同ビジネスにより2018年4月から提供を開始しております。

DXの一つである非接触の決済機能や自前のポイント、クーポン機能を提供し、消費者の購買データを収集することが簡単にできるようになります。

現在東急では、グループの大きな括りでポイントサービスやクレジットカード事業を展開してきました。

10年ほど前までは各施設が自分たちのやりたい施策を独自に行っていたのですが、効率化や合理化という観点からバラバラのサービスを統合しようという流れになり、グループ全体として足並みをそろえるようになりました。

しかし、そうなると、個別のショップや施設としては、独自のサービスを打ち出そうと思ってもコストや人的リソース等の問題から、なかなか取り組みづらいという問題が出てきました。

一方で時代は大きく変わり、特にスマートフォンが普及したことは大きなインパクトを私たちにもたらしました。

そこで、各施設が個別で展開したいと考えているサービスを実現するための“部品”を提供しようとのコンセプトのもと、「.pay(ドットペイ)」を開発しました。

有吉 なるほど、“部品”ですか。

松藤 氏 例えば「決済・ポイント・クーポン」といった施策を連結させて、売 上アップに結びつけるような仕組みをつくろうと思っても、簡単ではありません。

「.pay(ドットペイ)」を使えば、個別の施設でも簡単にそうした仕組みが実現できるわけです。その点で“部品”というコンセプトになりました。

東急グループ全体としての方針は、もちろんある一方で、個別の施設が独自策も打ち出せるようにしたのです。

売上増に直接的な効果を上げる

有吉 「.pay(ドットペイ)」は、2019年11月に開業した渋谷スクランブル スクエアから始まり、この1年と数か月で「mozoワンダーシティ、京都ファミリー」などさまざまな商業施設に導入されましたね。

DXというくくりで考えた場合、これから導入を検討されるデベロッパーにとって一番気になるところは、「ROI(投資収益率)」や「ROAS(ロアス 費用対効果)」だと思います。

これらについて、「.pay」導入による「効果」を教えてください。

松藤 氏 一つは「売上」です。客単価アップには直接効果があるようです。

有吉 売上は「客数×客単価」ですから、客単価アップに効果があるというのは、売上増に大きくつながりますね。
どういった点で客単価の向上につながっているとお考えでしょうか?

松藤 具体的にはその場でつくポイント「リアルタイムポイント」です

ショッピングセンターでは、上層階でアパレルを買っていただき、帰り際に下層階でお惣菜を買っていただけるじゃないですか。リアルタイムでポイントをつけることで、その日のうちにポイントを使おうというアクションにつながり、近所の店でお惣菜を買うのではなくて、そのショッピングセンターで買って帰ろうという行動を促していると思います。

まさにショッピングセンターのシャワー効果です。

有吉 なるほど。たしかに、ポイントがリアルタイムで反映されるシステムは、他のサービスを見てもそれほど多くなく、1日2日経ってからの付与が多いですよね。

「売上」につながる要素として、客数に関してはいかがでしょうか?

松藤 氏 アプリの会員数に関しては、実際に施設では会員数が毎月伸びており、売上に影響を与える客数にまで伸びているという面でも効果があると感じています。よくアプリ会員をあつめるのは難しいということも聞きますが、直接的にお客様にその良さが伝わるアプリは、会員を集めるのは、サービスと比例して伸びていきます。

施設では会員増のために、特にキャンペーンを打って会員を集めたというわけではありません。 お客さまが当たり前のように決済に「.pay(ドットペイ)」を使い、それを見て後ろに並んでいるお客さまも使うようになり、じわじわと浸透していきました。まさに数珠つながりで増えていった感じですね。


また、渋谷スクランブルスクエアでは毎月28日に必ずクーポンなど特典を用意しており、お客さまはそれを待ち望んでいて「このアプリがなくなったら困る」と、ありがたいお声もいただけております。それを東急がグループとしてやるのではなく、施設が独自にやりたいと思った施策として打ち出して、お客さまに認知され、売上に結びついているというのが最大の効果ですね。

コロナ禍の中、紙媒体やデジタルサイネージでの告知などは、費用対効果の面でやりづらくなっています。

その点「.pay(ドットペイ)」は、お客さまに直接情報を届けることができています。営業時間の変更の告知などもその一例ですね。

有吉 今までのマス媒体は、視認率はあまり考慮されず、何万人、何十万人に 伝えられるかが問われていました。

しかし現代ではワン・トゥー・ワン・マーケティングで、1人に対して確実に情報を伝えてあげることが重要になっています。

データ取得の観点では、デジタル上の方が膨大なデータを獲得できるので、そういった点でも「.pay(ドットペイ)」は複合的に課題が解決されると考えられますね。

松藤 氏 販促計画に対するデータを取得できるのは大きいと思います。 例えばクーポンについても、1000円クーポンを1回出すのか、500円を2回出すのか、どちらが効果的なのかを判断できるわけです。

従来ならばマーケティングのコンサルタントにアドバイスを仰いでいたことも、各施設の方が現場で「いいな」と思ったことを簡単にできるのです。

現場発想でトライ・アンド・エラーを

有吉 「.pay(ドットペイ)」は、アプリ自体がテンプレート化されておりSCやショップには もちろん他業界でもプラットフォームとして浸透する可能性をもっていると感じます。

そういった幅広い分野での活用も視野に入れた上で 開発されたのでしょうか?

松藤 氏 先ほど申し上げたように“部品”として「.pay(ドットペイ)」を使っ ていただくのが理想だと思っていますので、アプリのテンプレート化もその想いで行いました。

同じショッピングセンターでも、施設や店舗によってやりたいことは違いますよね。例えば、オフィスワーカー向けの特典パスや駐車場発券サービスなど、また「うちはポイントはいらない」という施設もあると思います。

そういう意味で“PDCA”ではなく“OODAループ”としてすぐ取り組むことが大切で、お金をかけずにトライ・アンド・エラーをしていただきたいと思っています。

複数の施設を所有されているなら、まずは一つの施設でやってみるというアプローチをしたら、見えてくる世界が変わってくる、またそこから前進すると考えています。

有吉 まったく同感です。事前に検討も大事ですが、まずは始めることによって見えてくる課題はたくさんありますしね。

これまでの経済成長の時代とこれからの時代の企業体制(ガバナンス)は変わってくると思うんです。

トライ・アンド・エラーを進めていくのは決して簡単ではありませんし、昨今のデジタル進化に合わせたスピードとマーケティングについていくのは難しいですよね。

松藤 氏 おっしゃるとおりです。私自身、長くマーケティング畑でやってき て、なかなか売上に直結する販促計画を打ち出せないという葛藤を抱えてきました 。

お客さまの未来行動を予測する回帰分析をしたり、クラスタリング分析をしたりと、手間をかけても直接的に大きな売上増につながらないのです。 その経験からも、現場が思い立ったらすぐに使える、そして自分たちで使いやすいように磨き上げていくことが必要だと思います。

企画が大きくなればなるほどコンセンサスを取るのが大変になってハードルが上がっていくものの、それに甘んじていては、時代に取り残されていきます。

「現場で必要だから使う」という判断が必要な時代になったと感じています。

有吉 「ホウレンソウ」も日本特有ですよね。一人ひとりが考えることを重視し ている海外文化と比較しても、生き残るためには現場判断がこれからは重要になりますね。

話しを少し戻しますと、「部品」という考え方であれば「.pay(ドットペイ)」のアプリケーションにライブコマース機能をつけたり、お客さまと接点のあるテナントが直接発信するツールもあると良いかもしれないですね。

DXや商業の未来について、貴社グループで課題となってい ることや今後の方向性を教えていただけますか。

松藤 氏 私がこのサービスをつくったときに最も大切にしたのは「顧客価値」 でした。

実はこれは東急が大事にしている3本柱の一つです。

「.pay(ドットペイ)」の開発で最も苦労したのは、実際に導入してくださる商業施設の皆さんと一緒にサービスをつくり、改善を重ねていくことでした。

時には、なぜこんな大変なことをやっているのだろうと思うこともありますが、お客さまが「いいね!」と思ってくれるサービスであれば、絶対に使っていただけるという確信はありました。

新しいことをスタートするのは大変なこともあり、煩雑ですし、手間も増えます。それは間違いありません。

しかしそこを乗り越えてこそ「顧客価値」を生み出せ売上増につながると思います。

 

変化を先取りし、真摯に顧客価値に向き合うこと

有吉 確かに新しい事に取り組む中で、何度もトラブルに見舞われた経験私もあります。 その中で心折れずにやり続けていくには、松藤さんがおっしゃるように「顧客価値」が重要だと思います。

お客さまの視点、もちろん私はベンダーであるのでSC側の価値もそうですが、その先のエンドユーザーが喜んでくれる、楽しんでくれるというのは、何よりも大きな支えです。

弊社イーストの「顧客同一化」という言葉好きなんですよね。

私が最近アジアビジネスを勉強する中で、知ったのが「客家18ヶ条」でした。

松藤 氏 「客家18ヶ条」とは?

有吉 客家は、中国の漢の源流からの民族で18ヶ条は格言のようなものです。 「運は親切をした相手の背中からやってくる」「何を始めるかに最も時間を費や すべし」といった言葉が記されています。

最近、経営層の方と御話しする機会が増え、成功した秘訣を伺うと、「運」というワードはよく聞くキーワードだと感じてました。 その「運」というのは、「親切」を心がけているからなんだと気づかされました。

他にも「安売りには必ず終わりがやってくる」、「物事は因数分解して考えよ」 「金鉱ではスコップを売るべし」 などが好きな言葉です。 実は掘っている人にスコップを売ることが“事業”だと考えさせられる時があります。

松藤 氏 なるほど。

私は後輩に「思いやりをもて」と指導しているのですが、“誰かのために”という 想いは本当に大切だと思います。 トラブルに直面したときに支えてくれるのは仲間ですからね。

スコップの話にしても、やはりマーケットを見ることが大切だと感じてます。 2008年にリーマンショックがあり、その中で台頭したスタートアップ企業が今の世界をリードしています。

時代を席巻するには、目まぐるしく変化する中、市場の変化を先取りして、勇気をもって踏み出すことが重要でしょう。 そのためにも「顧客価値」が大事だと思っております。

有吉 たしかにそうですね。

変化が激しいからこそ、踏み出すことが必要ですね。
このSCネットワークは属人なネットワーク網をオープン化して、知識見識を広げてつなげていき、商業の発展をしたい思いから立ち上げました。

是非最後に20代の若手の皆さんにメッセージをお願いします。

松藤 氏 知識と経験の豊富な先輩たちに追随するためには、総合的には難しいと思います。ただ今の時代、しっかりマーケットをみて その分野を深く調べれば、その分野で一番の知見を得ることが可能です。今回私たちが提供しているサービスのように、今の時代それが簡単に実現できる土台があります。

どんなことが社会に響くのかを自分の頭で考え、チャレンジや提案をすれば、誰にもできなかったこと、時代を変えることができるはずです。

ぜひ、スピーディーに恐れずそんなチャレンジを20代からやってほしいです。

有吉 この度はおいそがしい中ありがとうございました。

インタビューゲスト:東急株式会社 松藤 京介 氏

インタビュアー:株式会社イースト 有吉 利夫 

企画管理:SCネットワーク事務局 有吉

撮影・編集・執筆: SCネットワーク事務局 池田・安藤